2024/02/04
【ぜんそく】原因・症状・治療法を徹底解説!
今、日本ではぜんそくで悩んでいる人が年々増加しています。厚生労働省が2015年に行った調査によれば、ぜんそくの治療を受けている患者数は約120万です。治療をしていない人も含めれば、潜在的な患者数は少なくとも450万人以上と推測されています。
ぜんそく患者の人口対比でいえば、成人の場合でも3~4%を占めています(成人の人口比は約7%)。つまり、成人の20~30人に1人はぜんそくで悩んでいることになり、この割合からすれば、ぜんそくはとても身近な病気で、いつ誰が発病しても不思議ではありません。
ぜんそく症状
ぜんそくは気道の慢性炎症によって引き起こされる病気
ぜんそくの主症状は、突然の激しい咳込みとともに、ヒューヒュー、ゼーゼーという息づかい(喘鳴)があることです。さらに、息を吐きにくかったり、就寝時に胸が苦しくなったり、寝ているより座っているほうが呼吸しやすかったりするほか、粘りけのある痰がなかなか吐き出せないのも特徴です。
日本アレルギー学会が作成した「喘息予防・管理ガイドライン」によれば、「ぜんそくとは慢性的な気道の炎症が基本病態である」と定義されています。つまり、気道に生じている慢性的な炎症によって咳込みや呼吸困難などの症状が引き起こされるのです。
ここでいう気道とは、鼻や口から吸いこんだ空気を肺まで送る空気の通り道のこと。気道は上気道と下気道に分かれ、喉から頭までが上気道、気管から肺までが下気道で、細い管になっています。頭から肺までは気管でつながり、肺の中には気管支がさらに枝分かれした気管支が広がっています。
特にぜんそくの人は、気管支の内側が炎症を起こして狭くなっています。呼吸するたびにヒューヒュー、ゼーゼーと鳴る音は、狭くなった気管支を空気が無理に通ることで起こる空気の摩擦音なのです。このように気管支の炎症が咳や呼吸苦を招いていることから、ぜんそくを正式には「気管支喘息」といいます。
炎症のある気道は通常の100倍も過敏
炎症が起こった気道はどのような状態になっているのかといえば、熱がこもる(熱感)、充血しているように見える(発赤)、痛みやかゆみが生じる(疼痛)などの症状が現れます。
風邪を引いてのどが赤くなったり、ケガをして患部が腫れたりするのが、よく知られている炎症反応ですが、風邪やケガのように一時的ではなく、いつまでも延々と続くのが慢性炎症です。この慢性炎症が気道に生じることで、ぜんそくの土台ができあがってしまうのです。
気道に慢性的な炎症が生じると、気道の内側を覆う粘膜はむくんで腫れあがり、粘膜の表面はポロポロとはがれやすくなります。
炎症が生じた気道の粘膜は、私たちの肌や歯茎に置き換えれば、「日焼けし過ぎてまっ赤になり、ヒリヒリした状態」とか、「虫歯に冷たい水がしみてキーンと痛みが出る状態」にもたとえられます。それが気管支などで起これば、呼吸に深刻な支障が出るのはいうまでもありません。
炎症を起こした気道は、日常のささいな刺激にも敏感に反応して咳などを引き起こします。ぜんそくの人の気道は、健康な人の100倍も過敏になっていることから、ぜんそくは「慢性的な炎症によって生じた気道の過敏症」ともいえます。
発作が起こるしくみ
気道の慢性的な炎症でぜんそくの下地ができてしまうと、わずかな刺激でも発作が起こります。発作時には気管支が痙攣を起こして収縮し、粘膜がますます腫れあがって気道を狭めてしまうのです。
さらに、気管支の中では次々と痰がわき出てきて、気道をふさぎます。痰は粘膜の中にある分泌腺からわき出し、水分のほかに粘りけの強い成分が含まれているため、過剰に分泌されると栓をしたように気道がふさがれて、呼吸しにくなるのです。
痰の分泌量が多い場合は、枝分かれした気管支の形のまま、痰栓が形成されることもあります。
ぜんそくは最悪の場合、死にいたるケースもあります。
現在は、以前に比べれば死亡者数は減っているものの、それでも年間約100人がぜんそくで命を落としているため、薬物治療でぜんそくをコントロールすることは必要です。
ぜんそく発作のレベル
①端鳴/息苦しい・・・・・・喘鳴は聞こえるが、セキやタンはほとんどなく、運動すると息苦しさを感じる程度。
②小発作・・・・・・セキや喘鳴が続き、ふだんから多少息苦しさを感じるが、夜は眠れる。
③中発作・・・・セキや喘鳴がひどくなり、かろうじて立っていられる状態。呼吸が苦しくて横になって寝ることができず、座ったほうがらくになる。
④大発作・・・・※激しいセキ込みや息苦しさで身動きが取れず、会話も困難な状態。上体を起こして前かがみにならないと呼吸ができない。
こうした発作は、自然に治まることもあれば、薬を使わないと鎮まらないこともあります。
ぜんそくのタイプ
ぜんそくは、「アトピー型」と「非アトピー型」の二つのタイプに分けられます。アレルギー体質ではない人がぜんそくになることも珍しくありません。特に非アトピー型の割合は、成人のほうが高くなります。
アトピー型
特定のアレルゲン(アレルギーの原因物質)の侵入が、ぜんそくのきっかけになタイプです。アレルゲンになるのは、主にダニやホコリ、花粉などの鼻や口から入ってくる物質です。
ぜんそくの人の多くがアトピー型といわれ、成人で60%、子供で90%がこのカテゴリーに当てはまると考えられています。
非アトピー型
特定のアレルゲンを持たないのに、ぜんそくが起こるタイプです。特定の抗原に反応することはなくても、慢性的に気道が炎症を起こしているため、何らかのウイルス感染をきっかけに、免疫のシステムが過剰に働いて発作を起こします。大人になってから発病するぜんそくは、アレルゲンがない(特定できない)非アトビー型が多いのも特徴です。
ぜんそく発作の要因
ぜんそくの人は、気道が慢性的な炎症を起こして過敏になっているため、ごく些細な刺激や環境の変化にも反応して発作を起こします。具体的には、季節の変わりめ、温度差や湿度変化、時間帯、タバコや香水、排気ガス、住環境の変化、不安や不満などのストレス、大笑いや激しい怒りなどの喜怒哀楽など様々な要因が関係しています。
季節や気候の変化
春や秋は1日の寒暖が大きく、毎日の気温も変わりやすい季節です。
ぜんそくの人は急激な温度変化があると、気道が狭くなって発作を起こす原因になります。また、日本は移動性の高気圧や台風シーズン、寒冷前線の接近といった気圧の急変を受けやすい地域です。さらに、梅雨時期はジメジメして湿度が高く、アレルゲンであるダニやカビも発生しやすいので気道の炎症が起こりやすく、ぜんそくの人にとっては気の重い季節です。
就寝中の深夜から明け方
夜間から早朝にかけては、ぜんそくの発作が起こりやすい時間帯です。夜の寝始めに比べて、明け方は気温が平均5~6度下がるので、気道が狭くなって発作が起こりやすくなります。
花粉症
ある調査によれば、成人ぜんそくの35%にスギ花粉症との合併症が見られるという報告もあります。これは、鼻の粘膜で炎症を起こすと、その細胞から放出された物質が血液に乗って気管支に到達し、気道を狭めるためだと考えられています。
肥満
最近では、肥満がぜんそくの要因になることもわかってきました。脂肪に圧迫されて肺や気道が狭まることのほかに、脂肪細胞から出るレプチンという物質が免疫の働きを乱すためです。また、レプチンには、ぜんそくの治療薬の働きを弱める作用もあるので、メタボぎみの人はダイエットに取り組んでください。
このように、ぜんそくは生活全般から影響を受けやすい病気です。アレルギー体質の人は、花粉やダニ、ホコリといったアレルゲンになる物質をなるべく取り除く、のどが弱くタンがつまりやすい人は室内の湿度を一定に保つ、メタボの人はダイエットに取り組むなど、ぜんそくの原因になりそうなところから一つずつ対処していくことが大切です。
成人ぜんそく
かつては子供の病気と思われていたぜんそくですが、近年は「成人ぜんそく」が増えています。
厚生労働省が実施した保健福祉動向調査(2003年)によれば、ぜんそくや呼吸困難を訴える人は、15~64歳で6%、65歳以上では9.7%です。つまり、高齢者の10人に1人は呼吸にかかわるトラブルを抱えていることになり、肺炎などを併発すると重症化して命にかかわります。
成人ぜんそくの内訳を見ると、子供のころからぜんそくを持ち越した人は12%、一度は治ったものの大人になってから再発した人は9.9%にすぎません。しかし驚くべきことに、大人になって初めてぜんそくになった人が、実に58.5%もいるのです。
また、成人ぜんそくでは40~50代の働き盛りの発症率が最も高いことからすると、仕事や家庭で中心的に働いている世代は、ストレスや過労などもぜんそくの原因になっていると考えられます。今までにぜんそくやアレルギーの経験がなくても、セキが続いたり、自然な呼吸がしにくかったりする人は、成人ぜんそくを疑うべきでしょう。
さらに、成人ぜんそくは、アレルゲンを特定できない非アトピー型が多いのも特徴です。成人になると、喫煙や飲酒、化粧品や香水など、ぜんそく発作の引き金となる成分に触れる機会が多くなり、ストレスや過労、肥満や不規則な生活なども加わって、ぜんそくは慢性化しやすいといわれています。
小児ぜんそくは中学入学までに7割が消失
先ほどの保健福祉動向調査では、成人ぜんそくだけでなく、「小児ぜんそく」も増加しているという結果が出ています。
0~4歳の有病率は13.6%、5~14歳では10.9%で、4歳以下の子供の約7人に1人がぜんそくの症状を持っていると報告されています。1960年代の小児ぜんそくの有病率は0.5~0.7%ですから、当時と比べると、ぜんそくの子供が20倍近くに増えていることになります。
小児ぜんそくの場合、発病のピークとなるのが1~2歳です。2歳までに約60%が、6歳までに約90%が発症しているとされています。
ただし、改善しやすいのも小児ぜんそくの特徴で、中学校に入学するまでに約70%の子供は、ぜんそくの症状が消失します。決して軽視はできないものの、小児ぜんそくは自然に治る確率が高いのです。
小児ぜんそくの90%以上は、特定のアレルゲンが原因になるアトピー型であることから、一般的には、生まれつきの体質や家族のアレルギー歴が発症の原因になると考えられています。ぜんそく以外のアレルギー病も発病しやすく、赤ちゃんのころはアトピー性皮膚炎、1~2歳になると小児ぜんそく、小学校になるころにはアレルギー性鼻炎というように、アレルギー症状が変化していくケースも見られます。とはいえ、アトピー体質の子供たち全員が、ぜんそくになるわけではありません。体質だけでなく、精神面や生活面が大きくかかわってくるので、ぜんそくのお子さんを持つ保護者の方は、過度に神経質にならないようにしましょう。外遊びを制限したり、必要以上に厚着をさせたりするよりは、少々寒くても外で遊んだほうが、体質改善のトレーニングになるからです。
そして、掃除や布団干しを小まめに行ってダニやホコリを取り除き、アレルゲンの少ない環境を整えることも症状の軽減につながります。
空セキが長く続く「セキぜんそく」
最近は、「咳ぜんそく」と病院で診断される人が増えています。近年、よく聞くようになった咳ぜんそくは、一般のぜんそくとはどう違うのでしょうか。
咳ぜんそくの主な特徴は、1カ月以上も続く空咳です。よくあるのは、風邪(発熱や鼻水、鼻づまりなどの症状)が治ったあとも咳だけが慢性的に続いて、ほかに目立った症状がないケースです。
咳ぜんそくは、
- 深夜から明け方にかけて就寝中に咳が出やすい
- 急激な温度変化や季節の変わりめに多発する
- タバコの煙や香水などが刺激となって咳が止まらなくなる
といった点が一般的なぜんそくの特徴とよく似ています。
逆に、ぜんそくと異なるのは、
- ヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴がない
- 痰はあまり出ない
- 呼吸困難に陥ることもほとんどない
といった点です。
咳ぜんそくの人は、気道が狭くなっていることは少ないものの、粘膜に炎症が起こっているため、ぜんそくの前段階の状態だといえます。咳が長引くと本格的なぜんそくに悪化しかねないので、この段階から薬物治療を開始することも多いのですが、咳がなかなか治まらないケースがよくあります。
ぜんそく治療
ぜんそくの治療には、大きく分けて2種類の薬が使用されます。
1. 発作を予防する薬(コントローラー)
- 吸入ステロイド薬:気道の炎症を抑える薬です。ぜん息の長期管理に最も重要な薬です。
- 長時間作用性β2刺激薬:気管支を拡張する薬です。吸入ステロイド薬と併用されることが多くあります。
- ロイコトリエン受容体拮抗薬:気道粘膜の炎症を抑える薬です。
- 抗アレルギー薬:アレルギー反応を抑える薬です。
これらの薬は、毎日定期的に服用することで、発作を予防し、症状を改善することができます。
2. 発作を止める薬(リリーバー)
- 短時間作用性β2刺激薬:気管支をすぐに拡張する薬です。発作が起こったときに使用します。
- 抗コリン薬:気管支の分泌を抑制する薬です。短時間作用性β2刺激薬と併用されることがあります。
- メチルキサンチン系薬剤:気管支を拡張し、呼吸を楽にする薬です。
これらの薬は、発作が起こったときにのみ使用します。
ぜん息の薬を選ぶ際のポイント
- ぜん息の症状
- ぜん息の重症度
- 年齢
- 他の病気の有無
などを考慮して、医師が選びます。
ぜんそくセルフケア
喘息の治療は、自分の喘息の状態を理解し、適切なセルフケアを行うことも重要です。
喘息のセルフケアには、以下のようなものがあります。
- 薬を正しく服用する
- 発作の誘因を避ける
- 規則正しい生活を送る
- 適度な運動をする
- 禁煙する
喘息は、完治することは難しい病気ですが、適切な治療とセルフケアを行うことで、症状をコントロールし、日常生活を送ることができます。
ぜんそくまとめ
- ぜんそくは、気道の慢性炎症によってセキや息苦しさが起こる。
- アレルギー体質ではない人も、ぜんそくになる可能性がある。
- アレルギー体質の人は、まずアレルゲンを特定し、身の回りからできるだけ排除する。
- ぜんそく発作を抑えるには、ふだんの予防治療が重要。
- ぜんそく発作を引き起こす要因は人によって違い、ストレスなど精神面からも影響を受ける。
- 大人になってからぜんそくを発症するケースが多い。
- 小児ぜんそくは比較的治りやすい。
- 空セキが1カ月以上続くが、喘鳴や呼吸困難を伴わない場合は、セキぜんそくの疑いが大きい。
- 喘息治療薬で喘息をコントロールする
参考文献
公益財団法人 ぜん息・アレルギー疾患研究財団 https://www.erca.go.jp/
日本アレルギー学会 https://www.jsaweb.jp/