糖尿病のお話
インスリンの分泌量の不足や、その働きが悪くなると、栄養分が細胞の中に取り込まれなくなり、血液中にブドウ糖などの量が増えてきます。そして長期間高血糖状態が続くと、腎症や網膜症、神経障害などの合併症が起きる場合があります。
1型糖尿病は、自己免疫により、膵臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌しているβ細胞が死滅する病気が多くを占めます。1型の場合、膵臓に作用する経口糖尿病薬が無効で、主にインスリン注射にて血糖値をコントロールする必要があります。
2型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン感受性低下の二つを原因とする糖尿病で、一般的に「生活習慣が悪かったので糖尿病になった」と言う場合、この2型糖尿病を考えます。糖尿病は、血糖が少々高いだけでは症状がでないのですが、放置してしまう事で、将来、合併症に苦しむ事が、厄介なところです。
合併症には、急性合併症と、慢性合併症があります。
急性合併症には、ケトン性昏睡、非ケトン性高浸透圧性昏睡、乳酸アシドーシス、低血糖昏睡また、急性感染症などがあり、これらは、対症療法となります。
ゆたかクリニックでは、特に慢性合併症の予防を糖尿病コントロールを目標としています。慢性合併症は、日々の血糖コントロールで予防できるものと考えます。
糖尿病の合併症でまず考慮する必要があるのは、小細血管障害による、糖尿病性網膜症の加療、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害です。
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●網膜症
網膜には栄養を補給する多くの血管が走行しています。高血糖状態が長く続くと、血管に障害が出現し、血管がもろくなり、出血しやすくなります。
また、小さな血管が血栓でつまり、梗塞を作ったり、血流が途絶えた部位に血流を補充するための新しい血管(新生血管)ができてきます。新生血管は、急ごしらえのため非常に脆く、ちょっとしたことで出血を起こす原因ともなります。これらが進行していくと、失明に繋がっていきます。
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●糖尿病性神経障害
末梢神経には、痛みや温度を感じる感覚神経と、手や足などを動かす運動神経があります。神経を栄養する血管の障害で、感覚神経から障害が現れてきます。左右対称に、手や足の指先がじんじんしたり、しびれや痛みを感じたり、虫が這っているような異常知覚異常が出現します。
さらに進行すると運動神経に障害が現れ、筋肉に力が入りにくくなったり、顔面神経麻痺や外眼筋(目を動かす神経の動眼神経や滑車神経)麻痺を生じて物が二重に見えたりするようになります。末梢神経障害のために、手先、足先に怪我をしたり、火傷をしても気付かなくなり、重症化したり、化膿して壊疽を起すこともあります。
また、自律神経に障害が及ぶと、胃のもたれ(胃無力症)、便秘や下痢、起立性低血圧による立ちくらみ、排尿困難やインポテンスなどの症状も現れます。
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●糖尿病性腎症
血液を濾過する役割をしているのが、腎臓の糸球体です。この糸球体は毛細血管の塊でできており、高血糖が長期間続くと、他と同様に、血管が障害され、濾過機構が破綻してしまいます。濾過機能が破綻すると、クレアチニン、尿素窒素等、体外に老廃物として排出しなければならない物質が蓄積され、倦怠感、悪心、精神的不安定、掻痒感などの尿毒症症状が出現します。
また、正常な状態なら、身体に必要なタンパク質等は、体外に漏れでないようにしますが、腎症を発症すると、このタンパク質(蛋白尿)が身体の外に漏れ出てしまい、血液中の蛋白濃度が下がり、浮腫を起こします。最終的に、透析療法を行わないと尿毒症症状で死に至る事もあります。
治療法
運動療法、食事療法、投薬加療を組み合わせることで、血糖値がコントロールされます。
●食事療法
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◉バランスよく食べる
糖尿病の食事療法では、毎日いろいろな食品を適正な量食べる事が大切です。エネルギー量が少なく、ビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富な食品を積極的に食べましょう。
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◉1日3食きちんと食べる
エネルギー量によるカロリー計算しましょう。
同じエネルギー量の食事でも、1食だけに集中して食べると血糖の上昇が大きくなります。3度の食事の内容が均等になるようにしましょう。
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◉アルコール・甘い物は控えめに
糖分を多く含む甘いお菓子などは、血糖の急激な上昇につながり、血糖コントロールを乱しやすくなるので、控えたほうがよいでしょう。
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◉食物繊維をとる
食物繊維は糖の吸収を遅らせ、血糖の上昇を緩やかにします。野菜、海草、豆類、いも類、こんにゃくをメニューに取り入れるようにしましょう。
●運動療法
- ①血糖を下げる効果
- ②体重を減らす効果
- ③心臓や肺の働きを強化する効果
- ④血圧を下げる効果
- ⑤足腰など下肢の筋力を強くして、老化を予防する効果
- ⑥血液の循環をよくする効果
- ⑦ストレス解消など気分転換の効果
- ⑧体力がついて動きが楽になるため、日常生活が快適になる効果
●薬物療法
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①DPP−4阻害薬
食後内服。膵臓に作用
インスリン分泌を強める消化管ホルモンを分解する酵素を阻害してインスリンの働きを強める薬剤で、血糖値が高い時に、インスリン分泌を促し、血糖値を下げる薬です。低血糖になりにくい為、当院ではファーストチョイスとして使用しています。 -
②SGL2阻害薬
尿細管に作用
健康な人では、血中グルコースのほとんどが再吸収され、尿糖は排泄されません。SGL2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を減らし、尿への糖排泄を増やし体外に糖を排出することで、血糖値を下げます。これまでの糖尿病治療薬は膵臓に作用し、最終的にはインスリンを出すことで血糖コントロールを改善するものでした。SGLT2阻害薬の大きな違いは、尿細管に作用する治療薬で、腎臓の機能そのものへの負担もありません。インスリン分泌の有無を問わず、高血糖が改善されます。脱水、膀胱炎に注意する。
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③スルホニルウレア
食後内服。膵臓に作用
膵臓のインスリンを合成するβ細胞に働き、インスリンの分泌を促進させ血糖値を下げる薬です。糖尿病内服治療薬の中では、最も多く使用されている薬です。血糖値が低くても効果を発揮するため、低血糖を起こすことがあります。 -
④食後過血糖改善薬(α−グルコシダーゼ阻害薬)
食前に内服。腸管に作用
グルコバイ(アカルボース)ベイスン(ボグリボース)セイブル(ミグリトール) 消化吸収を緩徐にすることで、血糖の上昇をおさえる薬剤。
血糖値の食後のピークを減少させ、食事とともに摂取すると有効であるが食事以外の高血糖の治療には有効ではない。炎症性腸疾患の患者では禁忌。 -
⑤速攻型インスリン分泌促進薬(グリニド剤):グルファスト
食直前に内服。膵臓に作用
スルホニル尿素薬と同じように、SU受容体に作用することでインスリン分泌を促す薬血糖降下作用はSU剤に比べると弱いが、服用から約30分後に効果が発現し、約60分後に効果が最大に達し、約4時間後に効果が消失する。 -
⑥ビグアナイド薬
食後内服。肝臓に作用
肝臓でブドウ糖が新しく作られるのを抑制し、インスリンの働きを良くする。また、腸からブドウ糖が吸収されるのを抑制します。食欲を抑える働きがあるので、食べ過ぎてしまう人が適応となります。 -
⑦チアゾリジン薬:アクトス
インスリン抵抗性改善
インスリンの抵抗性を悪化させる様々な因子の転写調節をする。
体重が増加する傾向があり、心不全の既往がある患者には禁忌。
男性膀胱癌のの患者には、原則使用を控える。
骨粗鬆症のお話
骨粗鬆症は全身的に骨折のリスクが増大した状態です。骨粗鬆症の患者は国内で推定1000万人。しかし実際に治療を受けているのは200万人に過ぎないと言われています。骨粗鬆症になると、ちょっとした事で、肩、手首、股関節、腰椎等が骨折してしまいます。

潜在患者に診断・治療を提供するのと同時に、発病前の兆候を発見し積極的に予防していくことが重要です。特に女性は、閉経後にエストロゲンという 破骨細胞活性を抑制するホルモンの減少で、骨粗鬆症になる方が多くなります。
診断〜治療の流れ
- 1.骨粗鬆症であるか、診断します。(骨密度計測)
- 2.原因を精査します。(血液検査、尿検査、問診など)
- 3.生活指導いたします。(カルシウム、ミネラルを取り、適度な運動しましょう)
- 4.骨粗鬆症と診断された場合、投薬治療(内服薬 点滴 注射薬等があります)
1.診断:骨密度測定
骨粗鬆症の診断には、骨密度を用います。当院では、手の骨をX線で撮影して写真から骨密度を測定するDXEA法を用いて診断致します。
※骨密度(こつみつど、BMD(Bone Mineral Density)とは、単位体積あたりの骨量のこと。65歳以上の高齢者に発症率が高いため、骨密度検査する事を御勧めします。



若年成人比較%(YAM=Young Adult Mean):若年齢の平均BMD値(基準値)を100%として、被験者と比べて%をだしたもの。骨粗鬆症診断基準に用いられます。
骨塩測定にて、YAM値が80%以下で、脆弱性骨折の既往があり、骨折の危険性が危惧される場合か、YAM値が、70%以下の脆弱性骨折を起こす可能性が高い患者様を骨粗鬆症と診断し加療いたします。
2.原因精査
正常な骨では、破骨細胞が古い骨が溶かし(骨吸収)、骨芽細胞が、新しい骨を形成しています。このバランスが良く、減った分を補給されている間は、骨量は減少しないので、正常なんですが、骨吸収(溶ける量)が、骨芽細胞(作る量)骨形成を上回ると、骨密度は低下します。
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◉骨代謝マーカーによるモニタリング
骨吸収マーカー(骨が溶ける量)と骨形成マーカー(新しい骨が出来る量)を測定する事で、骨粗鬆症を発症の原因を知り、治療が有効であるかを知る事が出来ます。骨代謝マーカー(血中NTX) などを検査する事で、把握しています。
ただし、骨の強さは、骨密度だけで判断する事は出来ません。
骨強度は、骨密度が70%、骨質が30%を締めています。骨密度と骨質により規定されますが、そのどちらが低下しても骨強度は低下し、骨折リスクは高まります。骨質の測定は難しいため、骨密度にて骨強度を推測します。若年期にスポーツ等により、骨を鍛えて、高い骨密度を獲得しておくと、骨粗鬆症になりにくいとされています。

その他にも、喫煙者は非喫煙者に比して骨折のリスクは 1.26倍あるとされています。アルコールを多量に摂取すると腸管でのカルシウム吸収抑制と尿中への排泄促進作用により骨粗鬆症のリスクが高くなります。アルコール摂取の多い方、喫煙の多い方は、骨量測定値が正常値であっても、薬物療法を検討することが提唱されています。
糖尿病、リウマチ、副甲状腺機能亢進症、他(膠原病、腎臓病、呼吸器疾患等のステロイド使用)等も、骨粗鬆症のリスクが高くなります。
3.指導
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◉食事
骨密度を低下させない食事療法
カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなど、骨密度を増加させる栄養素を積極的に摂り、骨を丈夫にするのが骨粗鬆症の食事療法です。カルシウムとビタミンDを同時に摂ることで、腸管でのカルシウム吸収率がよくなります。
また、タンパク質の摂取量が少ないと骨密度の低下を助長します。食事量が少なくなりがちな高齢者の方は注意しましょう。栄養やカロリーのバランスがよい食事を規則的に摂るのが、食事療法の基本となります。※カルシウムを多く含む食品: 牛乳、乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など
※骨粗しょう症や骨折予防のためカルシウムの摂取推奨量は、1日700~800㎎。
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◉運動
骨密度を低下させない運動療法
運動不足は骨密度を低下させる要因です。骨にカルシウムを蓄えるためには、「体重をかける」ことが大事。踏み固めた丈夫な骨は、破骨細胞の攻撃でも溶けにくくなり、骨密度の減少を抑えます。日常生活のなかで階段の上り下りや散歩などを取り入れ、運動量を増やすだけでも効果があります。
骨密度の低下防止にとくに有効な運動は、ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、ヨガ、ゲートボールなどです。無理はせず、痛みが出る様な時は、控えめにしてください。
4.治療
治療は、内服薬、注射、点滴と言った薬物療法を行います。近年、新薬の発売が加速しており、治療が進んでいる分野と言えます。

関節リウマチのお話
関節リウマチの患者数は、日本全国で100万人以上いるものと推測されています。早ければ20歳代で発症する場合もあり、30~50歳代が発症年齢のピークだといわれています。女性に多く見られる疾病で、妊娠、出産と言った、免疫反応を高める/抑制するといった繰り返しが、関節リウマチを発症しやすくさせている要因だと考えられています。
関節リウマチは、決して死に至る疾病ではありません。しかし関節リウマチを放置し続けたとすれば、骨の破壊/変形が生じ…最後には立ち上がる/歩行困難をも招く難病です。関節リウマチは、原因そのものをなおす治療法は存在しませんが、適切に加療する事で、30~50%に臨床的寛解が得られます。
関節リウマチの発症原因は、未だに完全解明されていませんが、ウィルス等が関係していると考えられています。体質には遺伝的要因がかなりの割合を含んでいることがわかっています。
関節リウマチの初期症状として、両手足の関節のこわばり・痛み・腫れから始まります。その後、身体中の関節や全身の器官に痛みや疾病が広がっていきます。夜眠っている間に、関節炎症を起こしていると考えられます。
病態
関節リウマチは、免疫機能に異常が生じる膠原病の一種です。免疫とは、体外から侵入してきた細菌やウイルスなどの異物を認識し、排除するための仕組みで、私たちの体を守るとても大切な機能です。この免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し、体の組織や成分を異物とみなして攻撃してしまう、自己免疫疾患と言う病気です。
骨の端にはクッションの役割を果たす軟骨があります。関節は、滑膜という膜に囲まれており、この滑膜から分泌される関節液によって、関節がスムーズに動いています。しかし、この免疫の仕組みが乱れると、滑膜に炎症を起こし、滑膜組織が異常に増え、活性化した白血球、生体内物質(TNF、IL-6、T細胞)等が、関節の軟骨や骨を侵食し、徐々に関節が破壊されていくと考えられています。
治療
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◉メトトレキサート(MTX:methotrexate リウマトレックス®)
関節破壊を抑止する薬としてほぼ第一選択として用いられ、世界的に今日の関節リウマチ治療の基幹薬となっています。滑膜組織や軟骨組織の破壊に関係するコラゲナーゼの産出や、細胞増殖を抑制します。副作用は、肝機能障害、口内炎や胃腸障害などです。稀な副作用として間質性肺炎や白血球や血小板が急減する骨髄抑制を認めることもあります。したがって、リウマトレックス服用中は定期的な受診と検査を欠かさないようにお願いします。
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◉エンブレル ®(TNFα)/アクテムラ(IL-6)
生物学的製剤(エンブレル)は、最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品で、関節リウマチに対しては2005年から国内での使用が開始されています。一般のリウマチ薬に比べて薬剤費が高価ですが、特に関節破壊抑制効果に優れていることが知られています。
作用は、滑膜の炎症に関わる生体内物質TNFの働きを抑えます。完全ヒト化製剤のためリウマトレックスは内服しなくても使用できます。しかし、リウマトレックスを併用したほうが、エンブレル単独に比べ骨破壊の抑制が強いことが報告されています。また、他のTNF阻害薬に比べて、血中濃度が半減するまでの時間が約4日と生物学的製剤の中で最も短いため、副作用である、結核や悪性リンパ腫などの発症リスクが低い可能性が報告されています。副作用が発現した際にはもっとも対処しやすいということも言えます。
[ 副作用 ]…免疫抑制作用
生物学的製剤は、炎症を強力に抑える薬剤ですから、感染症になった時に、臨床症状を押さえ込んでしまう可能性があります。(例えば、肺炎を起こしていても熱が出ない、炎症による痛みを感じない・・・等。)定期的な検査(レントゲン/血液検査など)が必要です。 免疫力の抑制により、B型肝炎C型肝炎…活動性のあるものはもちろん、健常キャリアも再燃することがあります。肺炎・気管支炎・インフルエンザ・結核(…最も留意すべき疾患)癌の悪化が見られる事があるため、癌と診断されている場合は、処方できません。その他、外傷、歯科治療等で、感染症を引き起こしやすくなります。以下の方は薬物使用できない事があります。
- 感染症のある方(B/C型肝炎ウィルス、エイズウィルス、結核、ニューモシスティス肺炎)
- 悪性腫瘍のある方
- 脱髄疾患(多発性硬化症など)のある方
- うっ血性心不全のある方
- 過去6ヶ月以内に重篤な感染症の既往がある方
- 肺にご病気のある方
- 妊娠中および妊娠の希望がある方
認知症のお話
認知症は、いったん正常に発達した知能が、後天的な脳の器質的障害により、不可逆的に低下した状態をいいます。単に老化に伴って物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる現象は含まず、病的に能力が低下するもののみをさします。また統合失調症などによる判断力の低下は、認知症には含みません。また、頭部の外傷により知能が低下した場合などは高次脳機能障害と呼ばれ、厳密には認知症とは違います。
認知症は、「アルツハイマー病」、「脳血管障害による認知症」、「その他の認知症」に分けられ、それぞれ対処法も異なります。
認知症の約半数を占めるアルツハイマー病は、早めに発見・対処すれば、症状の進行を遅らせる事ができる場合があります。このアルツハイマー病についてお話しします。


脳は神経の塊で、無数の神経細胞が集まって出来ています。それぞれの神経細胞の軸索の先端が他の細胞(神経細胞の樹状突起や筋線維)と20nm程度の隙間(シナプス間隙)を空けて、シナプス接着分子によって細胞接着している状態で存在します。情報伝達は一方向に行われ、興奮がシナプスに達するとシナプス小胞が細胞膜に融合しシナプス間隙に神経伝達物質が放出されています。
脳内の神経伝達は、シナプス間の伝達がいかにスムーズに行われるかで決まります。神経伝達物質は、50種類以上が確認されていますが、その働きが比較的解っているのは20種といわれています。精神活動の面で重視されるのはγ-アミノ酪酸(GABA-ギャバ)、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリンなどです。アルツハイマー型認知症では、脳内アセチルコリン作動性神経系の顕著な障害が認められています。

これは、アセチルコリン(Acetylcholine,ACh)という神経伝達物質が、神経の末端から放出され、神経刺激を伝えるのですが、神経末端で分泌されたアセチルコリンは、速やかに分解されなければ、神経興奮過剰となり、痙攣、唾液過多、瞳孔の収縮などの症状がみられます。そこで、アセチルコリンエステラーゼ (AChE) という酵素が、この神経伝達物質アセチルコリンを酢酸とコリンに分解し、働きを失わせます。このような神経伝達物質の放出と分解を繰り返す事で、複雑な脳の働きが生まれています。
ドネペジル塩酸塩(アリセプト)レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチパッチは、アセチルコリン(ACh)の加水分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより、AChの分解を抑制し、作用部位(脳内)でのACh濃度を高め、コリン作動性神経の神経伝達を促進します。
レミニールには、アロステリック増強作用(神経伝達物質の分泌を促す効果)が追加されています。イクセロンパッチとリバスタッチパッチは、皮膚に貼るタイプの薬剤です。服薬を忘れてしまう方や、嚥下機能(飲み込み)が低下してしまった方にとってとても服薬しやすい形状です。
これとは、全く違う方向性の認知症治療薬が1種類あります。
◉グルタミン酸仮説
グルタミン酸は脳内における興奮性のシグナル伝達物質であり、脳での記憶や学習に関わっています。アルツハイマー型認知症の患者さんはどのような状態になっているかと言うと、脳に異常なタンパク質が生成されて、グルタミン酸が常に放出されている状態となっています。グルタミン酸が過剰な状態であるとグルタミン酸放出に関わる細胞が死んでいきます。これによってアルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。
グルタミン酸受容体(NMDA型グルタミン酸受容体)を阻害する薬が使用されます。このような薬としてメマンチン(商品名:メマリー)があります。
ボトックス治療のお話
ボトックスはボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質の一種です。神経伝達物質「アセチルコリン」の伝わりを弱める働きがあります。例えば、筋肉が緊張している部分にボトックスを注入すると、神経を通して送られる「筋肉を動かせ!」という命令が弱められ、筋肉がリラックスした状態になるのです。
また、筋肉の痙攣や緊張を抑える働きがあるため、脳卒中で、麻痺のある患者様の上肢、下肢の痙縮などの治療に用いられます。眉やひたいなどにできるしわを目立たなくする効果も期待できるため美容目的でも用いられる事がありますが、当院では美容目的の使用は行っていません。
脳卒中等で、麻痺のある患者様は、上肢の場合手を曲げる側の筋(屈筋が、伸ばす側の筋(伸筋)より強靭な為、丸まってしまう傾向にあります。(手は、ぐぅになります。)

下肢の場合でも、ふくらはぎ側の筋肉の方が強靭であるため、足が伸びてしまう(尖足)になってしまいます。ボトックス治療は、このような痙縮のある患者様に痙縮を緩和する目的で注射します。


手がぐぅになり開かなくなると、手のひらにアカがたまって不潔になったり、爪が肉に食い込んでしまう場合もあります。この様な状況を改善するため注射すると、手が開いて手のひらを洗える様になり介護がしやすくなると言うメリットがあります。
尖足の場合も、床ずれができやすくなったり、装具の装着が困難になったりして機能回復訓練の妨げになります。このような患者様に注射する事で、患者様のセルフケア/ポジショニングの改善、痛みやクローヌス(痙攣)の軽減、機能回復訓練の手助けとなります。動けない患者様には、往診で、注射する事も可能です。